按針亭
友を想う詩!
新設 : 2012-10-17
更新 : 2016-03-18
文語体訳詩(解説と吟詠)
宮地政司
友を想う詩! ウーラント原作「渡し場」に 魅せられ語り継ぐ人々

    略  歴    

(みやじ せいじ)

元東京天文台長

語り継ぎの足跡
















雑誌「大法輪」1979年4号28~29ページ「鉄笛」に掲載された 宮地政司著「『渡し場にて』の詩」を紹介します。

『渡し場にて』の詩

明治四十三年の春、巨大な彗星(すいせい)が現れた。ハレー彗星である。地球に衝突するとか、尻尾に包まれて地上の生物は全滅するなどの噂がとび、その壮大な姿に人々はおののいた。この年、旧制一高へ入学した三青年が、七十六年後再来するこの彗星をもう一度見ようと誓い合った。その一人の天文学者は先年逝き、去年は化学者が亡くなった。その告別式にみえた電気技術者の吉田源三さんは、その誓いの遂行を切々と語られた。

この亡き化学者は旧制六高の名物教授といわれた恩師山岡望先生である。生涯六高とともに生き、心の友とよき教え子に恵まれて幸福な一生であった。亡きあとも、その哲学は教え子の心に引き継がれた。「真理を、そして友を愛せよ」と。標題の詩は、その真髄である心と心との交流を誦ったもので、若き日の感激を伝えるものである。

思えば旧制の高校生たちは、洋々たる前途を約束されていたので、悠悠と学び、思う存分に心身を鍛えることができた。現今のように学歴や入試に振り回わされては、それは無理であろう。何とか心と心の触れ合いの場を持てないものか。そこにこそ、排他的競争や落ちこぼれが消えて、希望と活力に満ちた扶け合いの場が生れるのではなかろうか。

ここでウーランドの『渡し場にて』の要旨をのべよう。新渡戸(にとべ)先生から山岡さんへ、そしてわれらに伝えられた詩である。「幾年もまえに三人でこの河を渡った。夕焼も古城も川面のせせらぎも、凡てが当時のまま。だが二人の友はいまは亡い。そうだ、その交りは心と心の触れ合いだった。その意味で、われらはいまも一緒だ。船頭さん、三人分の渡し賃置きますよ!いまは亡き友の分もどうぞ」

六年たてば再びハレー彗星が現れる。吉田さんは一人で三人分ご覧になるだろう。この詩を高らかに朗読してその情景を偲びたい。

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